キャリアチェンジ2026-08-18監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

インフラエンジニアからセキュリティエンジニアへの転職。強みと不足の埋め方

この記事の要点

「ネットワーク構築なら10年やってきました。ただセキュリティ職の求人票を見ると『インシデント対応経験』『脆弱性診断の実務』と書いてあって、今の経験のままで応募していいのか分からないんです」

先日、あるインフラエンジニアの方からこんな相談を受けました。結論から言うと、インフラ経験はセキュリティ職の土台として確実に評価されます。ただし「そのまま通用する」わけではなく、埋めるべき経験の差が3つほどあると僕は考えています。今日はその中身と、現実的な埋め方、そして実際によく見かける失敗パターンまで整理してみます。

0. インフラエンジニアの経験は、どこまでそのまま評価されるか

ネットワーク機器のACL設計、ファイアウォールのルール管理、Active Directoryの権限設計、サーバーのログ運用。こうした経験は、SOCアナリストやクラウドセキュリティエンジニアの仕事の土台とかなり重なっています。実際、僕がこれまで一緒に仕事をしたSOCのメンバーには、前職がデータセンターの運用監視やネットワーク保守だった方が複数います。あるメンバーは前職で深夜の監視業務中に、普段は動いていないはずのバッチサーバーから外部への通信を見つけ、社内SEに確認したところ設定ミスだったという経験を語ってくれました。攻撃ではなく単なる設定ミスだったとしても、「普段の通信の姿を知っているからこそ違和感に気づけた」という点は、セキュリティ監視の本質と同じです。

セキュリティのアラートは、正常な通信パターンとの差分でしか判断できません。そこの土地勘があるかどうかは、座学だけで身につけたセキュリティ知識より実は重いと僕は感じています。一方で、この土地勘だけでは通らない求人があるのも事実です。次の章で、実際にどこで詰まるかを見ていきます。

1. 書類・面接で実際に詰まるポイント

インフラ出身の方の職務経歴書でよく見かけるのは、「運用・保守を行った」という事実の羅列で終わっている書き方です。セキュリティ職の採用担当者が知りたいのは、異常な通信やイベントに気づいた経験があるか、そのときにどう考え、どう動いたかという判断のプロセスです。

僕が実際に見た2人のケースを比べてみます。Aさん(ネットワーク保守歴8年)は、職務経歴書に「ファイアウォールの運用・保守」「サーバーの死活監視」とだけ書いて応募を続け、書類選考で5社連続して不通過でした。一方、同じくらいの経験年数のBさんは、「深夜監視中に通常とは異なる宛先への通信増加に気づき、上長に報告してルールを見直した経験がある」という一文を職務経歴書に加えただけで、書類通過率が明らかに上がったと話していました。技術内容自体はAさんとほぼ同じでしたが、書き方の違いが選考結果を分けたと僕は見ています。

面接でも同様の傾向があります。技術的な質問より先に「気づいた経験はあるか」「なければどう補うつもりか」を聞かれることが多いというのが、僕がこれまで見てきた選考の傾向です。ここでつまずく方の多くは、経験がないのではなく、経験を「判断のプロセス」として言語化できていないだけだと僕は感じています。

2. 埋めるべき経験の差、3つ

僕が転職支援の中で感じている、インフラ経験だけでは足りない部分は次の3つです。

3. 現実的な埋め方、3つのルート

埋め方は大きく3パターンに分かれると僕は見ています。

1つ目は資格を軸にする方法です。CompTIA Security+や情報処理安全確保支援士は、体系的な知識を持っている証明として一定の効果があります。学習時間の目安は、Security+であれば実務経験がある方でも1〜2ヶ月、情報処理安全確保支援士は3〜6ヶ月ほどを見ておくと現実的です。ただし資格だけで採用が決まることはほとんどなく、あくまで書類選考を通過するための最低限のラインだと捉えておくのが現実的です。

2つ目は手を動かして実績を作る方法です。TryHackMeやHack The Boxのような学習環境で攻撃側の視点に触れたり、自宅環境にSIEM(無料版のSplunkやELK Stackなど)を立てて自分の家のルーターやPCのログを実際に取り込んでみたりすると、面接で語れる具体的な経験が生まれます。僕の体感では、週5〜10時間のペースで2〜3ヶ月続けると、面接で一つは具体的なエピソードを語れる状態になる方が多い印象です。

3つ目は社内異動や兼務です。今の会社にセキュリティ部門やCSIRT機能があるなら、まずそこへの異動を打診してみる方が、外部への転職より近道になるケースは実際に多いと感じています。社内異動であれば、インフラの知識をそのまま持ち込みながら実務でギャップを埋められるからです。僕の体感では、この3つを1つだけ選ぶより、資格で最低限の書類通過力を作りつつ、実践で語れる経験を積むという組み合わせのほうが動きやすいと思っています。

4. よくある失敗と対処

ここまでのルートを踏んでも、うまくいかない方には共通点があります。僕が見てきた失敗パターンを2つ挙げます。

1つ目は、資格取得だけで満足してしまうパターンです。情報処理安全確保支援士を取得した後、「資格があるのだから通るはず」と考えて応募を続けたものの、面接で「実際にログを見て判断した経験は?」と聞かれ、答えに詰まってしまうケースを何度か見てきました。対処法としては、資格の学習と並行して、自宅環境での実践を最初から組み込んでおくことです。資格取得後に実践を始めるのではなく、同時並行で進めたほうが、面接で語れる経験が資格取得と同じタイミングで揃います。

2つ目は、社内異動を打診するタイミングを逃すパターンです。「もう少し実力をつけてから異動を申し出よう」と先延ばしにしているうちに、社内のセキュリティ部門の増員枠が埋まってしまったという相談も受けたことがあります。社内異動は外部の求人と違って募集期間が明確でないことが多く、実力が完成してから動くのではなく、学習を始めた段階で早めに上長や人事に意思表示をしておくほうが、結果的にチャンスを掴みやすいと僕は感じています。

5. 移行先による違いと、年収の目安

インフラ出身者がどのセキュリティ職に移りやすいかは、これまで担当してきた領域によって差があります。僕が転職相談の中で見てきた傾向を整理すると、次のようになります。

現在の担当領域移行しやすいセキュリティ職強みになる経験埋めるべき経験
ネットワーク運用・保守SOCアナリスト通信ログ・機器操作の知識インシデント対応の型、攻撃手法の知識
サーバー・クラウド基盤運用クラウドセキュリティエンジニアOS・権限管理の知識クラウド特有の設定不備の知識、IaCの理解
社内SE・情報システム部門セキュリティ監査・GRC担当業務全体の把握力ISMS等フレームワークの実務適用力
ヘルプデスク・運用監視SOCアナリスト(未経験枠)一次対応・エスカレーションの基礎動作ログ解析の経験、攻撃の基礎知識

年収については、僕が見ている求人票と転職相談のケースをもとにした体感値で言うと、インフラエンジニアとしての年収レンジがおおむね450万〜600万円だった方が、SOCアナリストやクラウドセキュリティエンジニアに移行した直後は470万〜650万円程度に着地することが多い印象です。これは「未経験からのセキュリティ職」という括りでの相場観であり、前職の年収や企業規模、そして先ほど挙げた3つの経験の差をどれだけ埋められているかによって上下します。数年かけてインシデント対応やクラウド基盤のセキュリティ設計まで担えるようになると、600万円台後半から700万円台に届くケースも見てきました。こうした年収の全体感は、セキュリティエンジニアの年収相場を整理した別記事でも触れているので、あわせて確認してみてください。

(結論)

インフラエンジニアの経験は、セキュリティ職への転職において決して不利な経歴ではありません。むしろ通信やシステムの「正常な状態」を知っているという土地勘は、セキュリティの仕事の土台そのものです。ただしそれだけで選考を通過できるわけではなく、インシデント対応の型、攻撃手法の知識、ログを読む経験という3つの差を、資格・実践・社内異動のいずれかで、できれば組み合わせて埋めていく必要があります。資格取得だけで満足してしまったり、社内異動のタイミングを逃したりする失敗パターンも実際に見てきましたので、早めに動き出すことをおすすめします。皆さんいかがでしたでしょうか。今のインフラの経験は、決して無駄になりません。埋めるべき差を一つずつ埋めながら、では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. インフラエンジニアの経験だけでSOCアナリストに転職できますか?

経験だけでも書類選考に進める求人はありますが、僕の体感では未経験可・歓迎としている求人は全体の3〜4割程度にとどまります。異常な通信やイベントに気づいた経験を職務経歴書で具体的に語れるかどうかが、通過率を左右すると感じています。実際に同じ経験年数でも書き方一つで結果が分かれるケースを見てきました。

Q. セキュリティ転職でCCNAやLPICなどのインフラ資格は評価されますか?

評価はされますが、直接的な決め手にはなりにくいというのが僕の実感です。インフラ資格は基礎力の証明として書類選考の後押しにはなりますが、面接ではインシデント対応の型や攻撃手法の理解を問われる場面のほうが多くあります。資格取得と並行して実践経験を積んでおくことをおすすめします。

Q. インフラエンジニアから何年くらい経験を積んでから動くのが現実的ですか?

明確な年数の目安はありませんが、僕が見てきた事例では3〜5年ほどインフラの実務を積んだ方が、社内異動や転職で評価されやすい傾向があります。経験年数そのものより、異常に気づき対応した具体的な経験の有無と、動くタイミングを逃さないことが重視されます。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

この記事を、eBookで持ち帰る。 本記事をスライド形式のPDF(16:9・全12ページ)に再構成しました。お名前とメールのご登録だけで、その場でダウンロードできます。
無料でPDFを受け取る →

自分の現在地を、まず知る。

「サイバーセキュリティクエスト 適性診断」(無料)で、いま狙える職域タイプが分かります。個別に相談したい方はキャリア面談へ。

適性診断をやってみる → キャリア面談をする →

あわせて読む